「思い出すのに骨が折れれば折れるほど、記憶に残りやすい」

そのように考えれば、記憶学習への心理的なハードルはぐっと下がるのではないでしょうか。

「一回、いや何回でも忘れていいんだ、簡単に思い出せてしまうよりも、思い出すのに苦労した方が、記憶として定着しやすいんだから。

そう思いながら教科書や単語帳を読むのは、「覚えなきゃ」と根詰めて読むよりはるかに気持ちが楽で、取り組みやすいはずです。

では、そのように考えてもいい根拠は一体何か?
この「望ましい困難」のルールを理解するためにはまず、記憶の持つ二つの機能を知る必要があります。


記憶には、保存検索の二つの力があります。

保存の力は、その名の通り、学んだことを覚えている力です。
人間が持っている記憶を焼き付けるスペースの容量は、テレビ番組に換算すると300万番組分にもなるといわれています。
つまり、量は問題ではなく、一度保存された情報は、永遠にそのスペースに存在しているのです。

検索の力は、それらの保存された情報の塊を、いかに楽に思い出せるかというものです。

人類が遊牧していた時代から、脳は絶えず頭の中の地図をまっさらにして、天候や地形などの変化に適応していました。変化に適応する必要があるのは現代でも同じです。

検索
の力によって、素早く情報を更新し、もっとも関係の深い情報をいつでも取り出すことができる。検索の力は、その日を生きるためのものだといえます。

そのため、必要に応じて、ある記憶に対する検索の力は強まったり弱まったりします。
そして、検索の力の容量は、保存の力に比べて小さいです。
取捨選択が行われるからです。


この、検索の力の特性を知っておくことは非常に重要です。


検索の力は、記憶の検索が困難になるほど、つまり、脳の記憶を掘り起こす作業が大変になるほど、高くなります。
これを「望ましい困難」と呼びます。

一度苦労して思い出した情報は、容易には忘れません。

自動車教習所の教官の名前は、忘れている人がほとんどでしょう。しかし、一度(さまざまな情報を駆使して)思い出してしまえば、相当強い記憶として残るはずです。

勉強したことのある文章、公式、技などを検索する脳の動きは、見たことのある情報をもう一度見たり、復習したりする働きとは異なり、もっと複雑なものです。
その複雑な労力が、脳に保存される内容の質や検索の力を深めることにつながります。

事実や技術をより深く知識として習得するのは、単に復習するのではなく、自らそれを脳内で検索するからなのです。

さらに、必要な情報を検索してうまく引き出すと、その情報は以前とは違う形の記憶として再保存されます。保存の力が上昇するだけでなく、記憶自体も新しくなり、これまでとは違う繋がりが生まれていきます。

検索すること、つまり、思い出すことで、脳は鍛えられていくのです。


逆に、問題がすらすらと流暢に解けるような場合は要注意です。
事実を簡単に思い出せるようになるほど、学習の力が衰えます。
勉強して覚えた直後に復習しても意味はなく、記憶に何のメリットも生まれません。
前日にマーカーで線を引いた内容が出題されたにも関わらず、どうしても思い出せないという悲劇が生じるのは、この「流暢性の幻想」が原因となっていることがほとんどです。


テキストにマーカーを引くだけではなくて、短時間でいいから、思い出す作業を取り入れることが、学習効果をぐんと高めることにつながります。

思い出す作業はときに辛いかもしれません。しかし、その間、脳は着実にその機能を向上させていると思えば、筋トレみたいで楽しく感じられる…ような気がします。


 

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