2019/01/18 町田徹のふかぼり! ラジオNIKKEI第1 を元に作成

統計としては、毎月勤労統計より問題だらけのGDP



ルール違反の手法が横行していた毎月勤労統計問題は、延べ2000万人の雇用保険や労災保険で過少給付が生じるなど、政府の基幹統計がずさんであってはならないことを浮き彫りにした事件です。

一方、今日のタイトルはGDP(国内総生産)ですが、実は問題だらけなんですよ。

最近では、実態を反映していないんじゃないか、といって日銀の統計局が疑問視していて、GDP統計を集計している内閣府に対して、算出の元になっている生のデータの開示を迫り、多忙を理由に内閣府が開示を拒否するという騒ぎも起きている。

そこで今日は、みなさんがよく知っているはずのGDP統計をめぐり、実は専門家たちの間で熱い議論が繰り広げられているポイントだとか、統計として怪しげとされている部分についてお話ししたいと思います。
 
 

GDPとはどういうものか


GDPは、Gross Domestic Product の略で、ご存知の通り日本語では国内総生産と言います。

一定期間内に国内で生み出された付加価値の総額のことを言うので、GDPの伸びは、経済成長率を示すものになっています。

カウントする経済主体は国内の家計・企業・政府の三種類と、輸出から輸入を引いた純輸出。

GDPは経済状況だけじゃなくてインフレなどの価格の変動によっても変化してしまうので、こちらを名目GDP、価格変動の影響を排除したGDPを実質GDPと呼んで区別しています。

実質GDPを算出する場合は、ある年を基準年として、基準年の最終財とかサービスの価格を使って現在のGDPを計算しています。


以前よく用いられていたGNP、最近はあまり聞かないが?


たしかにかつては、国の実体経済を表す指標としてGNP(国民総生産)の方が広く用いられていたんですね。だけど最近はGDPが重用されるようになりました。

というのは、GNPには、外国に住む日本人の生産量を含む一方で、国内で経済活動をする外国人の生産量が含まれていないんです。

国際化が進んできたので、国の経済の規模とか成長具合をはかる物差しとしては、GDPの方がふさわしいんだろうと考えるようになってきたんです。



年々変化する経済の実態は、GDPにも考慮されるのか?


経済の構造が変わるとそれまでのGDP統計が実態を表さなくなる可能性があるので、だいたい日本では5年に1回程度の割合でGDP統計の算出基準を見直しているんです。

前回の基準改定は2016年の12月に行われました。

ただし、実はこの2016年12月改定について僕は、安倍政権の経済運営を容易にしつつ、成功を演出するものではないか、恣意的なものではないか、と実施前の2015年初頭からインターネットの連載コラムで指摘していたんです。


2016年12月改定を恣意的なものではないかとする根拠は?

 
当時新聞やテレビはあまり報じてくれなかったんですが、
国連が一昔前に決めた、2008SNAというGDP算出基準を、何年も経ってから後追いで改定するものだった。

日本も国際比較を容易にできるように合わせるべきだと安倍政権が突然のように主張し始めて、

それまでGDPの算出の際に無視していた研究開発費や特許使用料などを新たにGDP統計に計上する方針を内閣府の統計委員会にはかり、さっさとその実施を決めてしまったものだったからなんです。

これによって名目GDPがそれまでの算出基準で計算するより大きく水ぶくれする仕組みで、

安倍政権が掲げていた、2015年度のプライマリーバランスの赤字を5年前に比べて半分以下にするという財政赤字削減目標の達成がとっても簡単になるというカラクリになっていたんですよね。
 

目標達成のために算出基準を変えるのは本末転倒


で、新聞やテレビが控えめながら騒いだのは、2016年12月に実際に改定が行われた後。

特に2017年の衆議院議員選挙の際に、
自民党議員らが「政権交代後にGDPが大きく伸びた。2015年度の名目GDPは532.2兆円で、アベノミクス前の2011年度に比べ、38.3兆円も増加した。」と主張するような騒ぎがきっかけで、

その裏には2016年12月のGDPの算出基準改定があって、実際には政策でなだらかに伸びてきたわけではなく、旧基準の場合に比べ、2015年度のGDPが31.6兆円も基準改定だけで増えている、ということを指摘する報道が出たんです。
 
こうした統計のマジックこそが政権の経済運営の上手さを演出することになり、結果として政府与党の衆議院選挙における圧勝とか長期政権実現の一因になったんじゃないかと、僕は今でも思っています。
 
一方で、戦後最長の経済成長と言われても、みなさんの中には実感がない人も多いでしょ。やっぱり統計の方が変だとも言えるんですよね。


経済統計の基準改定は、タイミングや手法次第で社会に大きな影響を及ぼす



GDP統計の信頼性をめぐる議論というのは、この2016年12月改定時の研究開発費や特許使用料の計上問題で終わったわけじゃないんですね。

実は、2016年7月以来、GDP統計を策定している内閣府と、物価の番人日銀の間で、数年来のGDP統計をめぐる議論が闘わされているんです。

発端になったのは、2016年7月に日銀の職員2人が出した論文です。

それによると、2014年度の名目GDPは内閣府の公表額490兆円より、およそ30兆円多い519兆円だったんじゃないかというんですね。実質成長率も、内閣府の▲0.9%じゃなくて2.4%だったと主張しました。

日銀職員の論文は、内閣府が採用している国連基準ではなく、独自の手法で住民税や法人税といった税務データを用いてGDPを推計したものなんです。

GDPってさまざまな官庁が調査集計した統計を合算して作り出す二次統計なんですけども、

日銀は「内閣府がGDPの算出に、硬直的で実態を現さなくなった上、ブレも大きいと見られる一次データを使っているのではないか」と疑っていて、

徴税漏れを防ぐための見直しをいとわず網羅的に民間の経済活動をカバーしている税務情報をデータに使った方が正確にGDPを推計できる、と主張し、その通りの方法で計算していたんです。


民間の経済活動の変化を反映させた方が現実に近い数字になるように思える



この両者の激論が去年の10月に再燃していて、政府の統計委員会の下部会合の場で、日銀の調査統計局長が「基礎データの提供を求めます。」と内閣府の統計担当者に詰め寄る場面があったんです。

内閣府がGDP統計の算出に以前から同じような一次データを使っているのは信頼性があるのか、というのが争点になっていて、日銀はこれらの一次データに対する不信感を抱いているものだから、原データを開示させて自らGDP統計を算出したいと考えている。

これに対して内閣府は、人手不足で業務負担が大きいとして提供するデータを一部に絞っていて、相変わらず両者はにらみ合っているという状況。

内閣府への不信感ってあながち的外れじゃないんじゃないかと僕も思っていて、たとえば実質GDPを見ても、2015年7-9月期の速報値が、速報値段階はマイナスだったのが改定値でプラスになるとか、ブレが大きいんですよね。

それから、同じ国連基準だといっても、アメリカみたいに一次データにこんなのを使っていますよ、とガラス張りにもしていないんですよね。


恣意的に結果を変えられるGDPは経済成長をはかる指標にそぐわないのでは?


たしかにそういう考えは根強い。

もっと大きな問題としては、外部不経済、取引の当事者以外に費用負担が生じる問題のことをいうんですが、そういう外部不経済をデータ化してGDP指標に取り込むのってものすごく難しいんですよね。

わかりやすく言うと、物の生産の過程で地球温暖化を引き起こしたり、有害物質を出したり、貴重な自然を破壊したりということが起きますが、そういうマイナス面は損失を被るのが直接の当事者ではないので、お金の動きのデータとして把握できない。

GDPではそうした問題を勘案できないということになってしまうからなんですね。

で、家事とかボランティアみたいな収入を伴わない無償労働も反映できないでしょ。


GDPは限られた部分に着目した価値の合算にすぎず、その伸び率も本当の意味での経済成長率だとは言い難い面がある


かといって、あまり頻繁に算定基準を見直してしまうと連続性が失われて、変化を追う指標としての役割を果たさなくなるという面もあるから、ある程度の期間は見直さず整合性を守り続けることも重要なんですよね。

なので、結論を言えば、GDPは実情を把握するための一つの物差しに過ぎない、だから、政策決定に利用する際には、万能のツールじゃないことを十分に理解して、GDP統計には表れない要素にも十分に目配りする必要がある、と言えると思います。

それから、GDPをお手柄として語るような政府が現れたら、数字のマジックを使っていないか、と疑ってみる必要もあると思います。



参考→2/1放送分「泥沼化した毎月勤労統計の違法調査問題。統計と政策の精度向上に必要な措置とは?」



番組HP:http://www.radionikkei.jp/fukabori/ 
「町田徹のふかぼり!」ポッドキャスト書き起こし

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