2019/02/01 町田徹のふかぼり! ラジオNIKKEI第1 を元に作成

泥沼化した毎月勤労統計の違法調査問題。統計と政策の精度向上に必要な措置とは?



今週月曜、第198回通常国会が召集され、安倍総理は衆議院本会議で施政方針演説に臨み、毎月勤労統計の不適切調査問題について、

「長年にわたり不適切な調査が行われてきたことは、セーフティーネットへの信頼を損なうものであり、国民の皆様にお詫び申し上げます。雇用保険・労災保険などの過少給付について、できる限り速やかに簡便な手続きで不足分をお支払いいたします。基幹統計について緊急に点検を行いましたが、引き続き再発防止に全力を尽くすとともに、統計の信頼回復に向け、徹底した検証を行ってまいります。」

と強調しました。
 
これまでのところ、首相の演説と政府の対応には大きなズレがあって、そのズレが解消されていない、と思いますね。

違法調査に伴う保険給付の過少支給が537億円、その対象者数は延べ1973万人にのぼり、多大な影響があったことが判明した上、国会召集前にまとめた厚生労働省の特別監察委員会の調査結果は、厚労省の事務方がヒアリングを行い、たたき台を作るという、お手盛りのものだったことが判明しているからです。

先週末に行われた日本経済新聞の世論調査を見ても、政府統計を「信頼できない」という回答が79%の高水準を記録しました。

そこで今日は、問題点を整理した上で、統計の信頼性を確立して、策定する政策の精度を向上するには、いったいどうすべきなのかを考えてみたいと思います。


毎月勤労統計問題の発覚と経緯

去年12月28日、毎月勤労統計の違法調査問題が報道で発覚しました。

今年1月8日、根本厚生労働大臣が記者会見で問題が事実と認め、徹底調査を指示したと公表。

そして3日後の11日には、雇用・労災保険で過少給付になっている人の存在が判明しました。

16日、厚労省が第三者委員会と位置付ける、特別監察委員会を設置。

18日、2019年度予算案に追加給付金などを盛り込み、閣議決定をやり直します。

そして22日には、特別監察委員会が「組織的隠蔽は認められない」などとする検証報告書を公表。根本厚労大臣が、自身を含む幹部職員ら合計22人の処分を発表し、幕引きを狙います。

しかしその2日後の24日に、衆参厚労委員会で閉会中審査が行われ、厚労省職員が特別監察委員会のヒアリングの一部を肩代わりしていたことが判明。中立性に疑問符がつきます。

そして同じ日に、総務省が基幹統計の4割にあたる22統計で誤りがあったと公表。

翌25日には、根本厚労大臣が特別監察委員会の再調査を表明しました。



補足すると、厚労省が外部弁護士らの特別監察委を設置したのは16日。

もともと、監察委員会の委員長は、厚労省が所管する独立行政法人労働政策研究・研修機構の理事長であり、厚労省のシンパ。とても第三者委員会とは呼べない、という批判が存在しました。

そして、検証報告書の取りまとめ作業はわずか7日間

衆参両院の厚労委員会の閉会中審査に間に合わせるための突貫工事でまとめられた。


そして、24日の閉会中審査で、課長補佐以下の聞き取りは同省職員が実施、報告書の原案を作ったことが発覚。

で、検証の妥当性や、特別監察委員会の「第三者委員会」という位置付けが疑われる事態となり、根元厚労大臣が聞き取り調査などのやり直しを表明するはめに陥った。


さらに今週月曜日になると、菅官房長官が記者会見で、「問題のヒアリングの一部に厚生労働省の官房長が同席したと聞いている」と述べ、職員どころか、最高幹部が同席していたことも判明。

同席していたのは審議官や官房長ら最高幹部。

火曜日には、部局長か室長クラスの計20人の職員の聴取についても、このうち8人のヒアリングを事務方の職員だけで行なっていたことも明らかになったと。

実態は、違法行為の追及としては全く不適切な身内調査だったというわけですね。


問題解決には再ヒアリングで十分なのか?


本当は監察委員会の作り直しが必要ですが、解き明かすべき疑問も3つ残っていますよね。

1つ目の疑問は、誰がなぜ必要な手続きを経ずに調査手法を変えたか、という動機です。

2つ目の疑問は、不適切な手法を組織的に隠蔽する意図があったかどうか。

3つ目の疑問は、2018年分の調査から加工を施した理由、でしょう。

全数調査に近づける補正をかけた結果、去年の名目賃金の前年同月比の伸びは最大で0.7ポイント過大になっていた。

報告書では当時の担当室長の「誤差の範囲内であると思っていた」という発言を載せ、過少評価だったと指摘しました。

だけどこの時期、不適切な調査手法だったことが、統計を担当する局長クラスの政策統括官に初めて伝わっている。

部下に修正を指示したものの、公表しなかった。

野党は、賃金の上昇を政権の経済政策アベノミクスの成果として主張するため偽装したんじゃないかと批判を強めています。野党の指摘に回答する必要があるでしょう。 



毎月勤労統計だけでなくさまざまな統計で不備が判明


24日公表した基幹統計56の一斉点検では、4割にあたる22統計で誤りが見つかったということです。

発覚した誤りで、集計公表項目の漏れや、本来の公表時期からの遅れなどが多い、ということなんですが、
例えば、国交省は建設工事統計の2017年度の施工高について、15.2兆円から13.6兆円へと1.6兆円も下方修正しました。

ところが、今週月曜日、間違いがあったといわれた22の基幹統計以外でも、新たな誤りが見つかりました。

最低賃金を決める際に使われている、またしても厚生労働省所管の、主要産業の賃金実態を調べる「賃金構造基本統計調査」で、直接出向いて行う調査を郵送で済ませたり、調査対象が一部抜け落ちていた、というんですね。

このままでは統計に対する不信は広まる一方で、社会の実態や政策をはかる物差しが失われ、政府は国民からそっぽを向かれてもおかしくないでしょう。


問題の背景には何があるのか?

 
政府・霞が関の統計軽視があると思います。

総務省の「主要国の統計機関における職員数」という調査の「人口10万人あたりの統計職員数」というデータによりますと、

日本は人口10万人あたり統計職員数が1.5人と、トップカナダの15.0人の10分の1、2位フランスの9.1人の6分の1と、極めて少ないんです。

イギリス・アメリカ・ドイツも日本の2倍〜4倍はいます。

もう一つの総務省の統計で、「府省等別統計職員・本省職員等の推移」によりますと、

全省庁の統計職員数は、2006年の5581人から2016年の1886人と、10年間で66%も減らされているんです。

「消えた年金」問題以来、最近の働き方改革や今回の不正統計調査で問題になっている厚生労働省本省の統計職員数も、2006年の331人から2016年の237人へ、28.4%も減少しました。
 

統計にあたる職員数が足りていない


で、財政難の中で、統計セクションが予算の草刈り場にされているというのが霞が関の現実だということなんですね。

もともと霞が関は官僚の街で、スペシャリスト、特に統計のスペシャリストなんかは出世できないという風土があります。

そうした風土だからこそ、いい加減でずさんな統計の調査や誤った算出が繰り返されていると言わざるを得ないんです。


どういった解決法があるのか?


日本の統計セクションは、その都度、行政の問題意識に沿って、それぞれの役所が機動的な調査をできるようにするという狙いから、各省庁が裁量的に統計を作成できるよう、分散型の統計調査体制を採用しているんですね。

だけど、これだけ不備が相次げば、日本的な官僚組織の中で、それぞれが統計を取るというシステムはだめだと考えるべきでしょう。

で、僕が推したいのは、最も統計部局、あるいは統計そのものが充実しているとされているカナダ

ここのように、統計の専門家によって一元的に作成され、その地位も尊重される仕組み

つまり、統計の専門家を一元的に育てて管理する体制に改める、ということなんです。


組織を大きく変える抜本的な対策が必要


全省庁から統計部署を切り出して、一つの統計庁を作ることになりますから、大規模な官公庁再編になりますが、それぐらいやらないと信頼は回復しないでしょう。

そうすれば、国の成長力をきちんと把握でき、立案される政策も的を射たものになるはず。

今こそ、安倍総理に決断してほしいと僕は思います。




参考:1/18放送分「統計としては、毎月勤労統計より問題だらけのGDP」



番組HP:http://www.radionikkei.jp/fukabori/ 
「町田徹のふかぼり!」ポッドキャスト書き起こし

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