2019/02/08 町田徹のふかぼり! ラジオNIKKEI第1 を元に作成

軽視できないトランプ大統領の弾劾リスク。今月末にも提出のロシア疑惑の捜査報告書が引き金か?



2016年のアメリカの大統領選挙で、当時のトランプ大統領候補の関係者がロシアと不透明な選挙協力をしていたのではないかとされるロシアゲート事件の捜査報告書が、今月末にもまとまる見通しとなっています。

この件に関してホワイトハウスは防戦に躍起ですが、昨年の中間選挙で連邦議会下院の過半数を握った民主党は、この捜査報告書を議会に提出させて、大統領弾劾を発議する根拠にしようと待ち構えています。

過去の例から見て、もし弾劾手続が始まれば、アメリカの政界は機能停止状態に陥り、経済・外交政策はほぼ全てが滞ることになるでしょう。

その混乱は、この年末年始のアメリカを揺るがせたガバメントシャットダウン(連邦政府機関の一部閉鎖)の比ではないと考えられます。

そこで一体何が起きうるのか、ポイントを整理しておきたいと思います。


ロシア疑惑とは

疑惑は大別して2つあります。

1つは共謀疑惑といわれるもので、
2016年のアメリカの大統領選挙でトランプ陣営がロシアの支援を受けて選挙戦を有利に進めたのではないか、という疑いです。

もう1つが司法妨害疑惑と呼ばれるもので、
トランプ氏が共謀疑惑をめぐる捜査を妨害したのではないか、という疑いです。

両方の疑惑について、アメリカ司法省に特別検察官として任命され、百数十人のスタッフを使って捜査を進めてきたのは、ロバート・モラー特別検察官です。

モラー氏はFBIの元長官で、後でお話ししますが、1月末までに37個人・団体を起訴するなど、疑惑の真相解明に奔走してきました。


モラー特別検察官の捜査報告書ですが、正確に言うと、提出されるのではないか、という観測の段階なんですね。

事の発端は、
マシュー・ウィッテカー司法長官代行が1月28日、記者団の質問に答える形で、
「2016年の大統領選挙をめぐるロシア疑惑の捜査がまもなく結論に達するだろう」
とコメントしたことなんです。

捜査段階の疑惑を司法省のトップが進捗状況を明かすというのは異例中の異例とあって、
この発言が、大統領よりとされるウィッテカー司法長官代行が幕引きを急いでいるのではないか、という批判を呼ぶきっかけにもなりました。



捜査の進捗状況は? ①共謀疑惑


アメリカの情報機関は
2017年の1月に大統領選でトランプ候補の対立候補だったヒラリー・クリントン元国務長官の陣営のメールを流出させた内部告発サイトウィキリークスに情報を提供したのは、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)だった、
と断定しているんですけども、

モラー氏は、2018年7月に、このGRUのメンバー12人を、大統領選干渉の罪で起訴した。

その上で今年1月下旬には、トランプ陣営の元幹部ロジャー・ストーン被告を起訴。

ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏に接近してクリントン陣営のメールの流出のタイミングを事前に把握、トランプ陣営幹部に伝えていた、と決め付けました。


ウィキリークス関係者とやりとりしていたという点では、トランプ氏の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏も接触があったとされています。

メール流出直前の「クリントン氏に打撃となるだろう」というメッセージの送信が、流出を把握していた可能性を示唆している、というんですね。

共謀疑惑にはこのほか、ジュニア氏やトランプ氏の娘婿であるクシュナー上級顧問が2016年6月、
クリントン氏に不利な情報の提供をもちかけたロシア人弁護士と面会した、という案件もあります。

この弁護士は、別のアメリカでの裁判で、ロシアの検察に虚偽文書の作成を依頼できるほど、ロシア政府に近い人物だ、というんですね。
もうむちゃくちゃなんですけどね。



捜査の進捗状況は? ②司法妨害疑惑


鍵になるのが、トランプ大統領自身が2017年5月にコミーを解任したことなんですね。

コミー氏は初期の段階のロシア疑惑の捜査を指揮していました。

その本人によるとトランプ氏は、2017年1月の夕食会で、大統領への誠実な忠誠心を繰り返し要求しました。

その後には、共謀疑惑の渦中にあった元大統領補佐官、フリン被告に対する捜査の打ち切りを迫った。

コーツ国家情報長官に対して、捜査の停止をコミー氏に促すよう求めたこともあった。

トランプ氏は疑惑捜査を度々「魔女狩りだ」と主張し、モラー氏やローゼンスタイン司法副長官を非難してきました。

だけど、こういう捜査当局の萎縮を招きかねない非難自体が、捜査妨害とみなされてもおかしくはないですよね。



大統領が罪を犯した場合、訴追は可能か?


たぶんできないんですよね。

大統領が何らかの罪を犯していたとしても、アメリカ合衆国憲法には、現職大統領を刑事訴追できるかどうかの明確な規定がなくてですね、

司法省は2000年の覚書で、
「刑事訴追手続は、大統領の職務遂行能力を妨げるため許容できない」
としていますし、

専門家の中でも、大統領が罪を犯した場合の適切な法的処分は「弾劾」だとする説が有力です。 

この弾劾についてですが、
合衆国憲法は、反逆、収賄、その他重大な犯罪および経済非行を犯した場合、
議会下院で大統領の弾劾が発議され、上院で有罪判決を受ければ罷免されると定めています。
 

モラー報告書が弾劾手続開始要件に該当するかにかかっている?


モラー特別検察官の報告書の提出先が議会民主党あるいは議会ではなくて、
トランプ大統領が次期司法長官に指名していて議会の承認待ちとなっているウィリアム・バー氏になるんですね。

バー氏は報告書そのものを議会に提出するのは影響が大きすぎるとしていて、彼は報告書を要約した文書を提出する考えを表明しています。

この要約版が弾劾手続を進める上で十分だったら問題ありませんが、
不十分だった場合は、完全版の提出の是非を最高裁に問う必要が出てくる可能性があります。

議会民主党は必要ならばこうした手続きを進める構えを見せる一方で、トランプ氏周辺への独自の調査を通じて弾劾手続に持ち込む道も模索しています。

民主党のぺロシ下院議長が
「政権へのチェック機能を復活させる。」
と公言していて、
モラー特別検察官が注力しているロシア疑惑だけじゃなく、

トランプ氏の不倫女性疑惑への口止め指示疑惑とか、
大統領就任時に慣例に反して開示を拒否した納税報告書の開示問題とか、
ファミリー企業トランプ・オーガニゼーションと外国政府、特にロシア政府、そういうところの取引など、多岐にわたる調査を進めています。

容赦無く過去の脱税疑惑やロシアとの利害関係を洗い出す構えと言っていいでしょう。

現地メディアによると、
民主党はトランプ政権の疑惑などに関連し、当事者の議会証言や資料の提出を求めるおよそ150件のリストを作成しており、これを元にトランプ氏や周辺の不正行為の疑いを問いただす方針です。



民主党のリストの内容


リストには例えば、

トランプ氏が2016年の大統領選の直前に、元顧問弁護士のマイケル・コーエン被告を通じて、元ポルノ女優のステファニー・クリフォードさんに口止め料を支払って過去の不倫関係の暴露を防いだものの、コーエン被告がこの口止め料をトランプ氏への政治献金だとみなされて有罪判決を受けているんですが、
検察はトランプ氏が被告に支払いを支持したと認定して、トランプ氏を共犯とみなす可能性があります。

この問題で下院の司法委員会所属の民主党議員ジェラルド・ナドラー氏は
「弾劾に値する可能性がある」
との見解を示しています。


他にもいろいろありまして、例えば親族の問題なんですが、
トランプ氏の長女イヴァンカさんは、公務で私的なメールアカウントを使ったことが判明しています。

トランプ氏は大統領選でクリントン氏の国務長官在任中の私的メール使用問題をしつこく強く糾弾した過去があるだけに、跳ね返ってきてもおかしくないでしょう。

それから娘婿のクシュナー上級顧問は、政府内で不適格と判断されたにも関わらず、秘密情報にアクセスした疑いを指摘されています。

NBCニュースによると、
FBIの経歴調査で、過去のビジネスや外国との関わりで、秘密アクセスにふさわしくないと判断する事案が見つかったというんです。



まとめ


弾劾手続というのは長い時間がかかるもので、まず下院の単純過半数の賛成によって訴追された上で、上院で弾劾裁判が行われ、3分の2以上の賛成があれば、大統領が罷免されることになります。

ただし、これまでは罷免された大統領はいません。

ただ今回はですね、
始まってしまうと、今までの例から見てもそうなんですが、議会も大統領も複雑で膨大な手続きに追われて、アメリカの政治が機能不全状態に陥ることは確実です。

これは世界経済や日本経済にとっても大きなリスクファクターと言わざるを得ない状況なんです。





番組HP:http://www.radionikkei.jp/fukabori/ 
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