2019/02/22 町田徹のふかぼり! ラジオNIKKEI第1 を元に作成

ホンダがイギリスでの生産から撤退。狙いは『地産地消』と『電動化』だ!



ホンダの八郷隆弘社長は火曜夕方、東京都内の本社で記者会見を開き、
イギリスやトルコにおける自動車の生産を2021年中に終了すると発表しました。

この発表にイギリスは大きな衝撃を受けています。

イギリスのメイ首相は
「非常に失望した」
とコメントしつつ、
来月末に迫ったEU離脱協定の見直し交渉が難航しているイギリス政府の失政が、ホンダ撤退の背景にあるのではないか、という批判を恐れて
「ブレグジットが原因ではない」
と火消しに躍起になっているほどなんです。

逆に言えば今回のホンダの決定は、
ブレグジットの混乱に拍車をかけかねず、現地で大きな反発を呼ぶ事態になりかねないリスクがあった。

そうした状況にも関わらず、なぜこの時期にあえて、ホンダはイギリスでの生産から事実上の撤退を打ち出したのか。
今日はその真相を探ってみることにしましょう。

僕は、「地産地消」と「電動化」がホンダの決断を読み解くキーワードだと思っています。
 
 

イギリスの自動車産業の現状


イギリスの自動車生産台数がピークを迎えたのは1972年。
200万台まであと少し、という水準を記録したんですが、英国病の蔓延もあり、衰退。

1980年代に入って、当時のサッチャー首相が
「イギリスをヨーロッパの入り口にする」
と呼びかけて、外国企業を積極的に誘致。

それに呼応して、日本の自動車メーカーは競うようにイギリスで生産を開始しました。

ほぼ1年前の昨年3月、
JETROが公表したレポート『英国自動車産業の現状と課題』によると、
2017年のイギリスの自動車産業は、
直接雇用がおよそ17万人、関連産業全体でおよそ80万人という、主要産業の一つです。

生産台数は、
過去最高だった1972年以来の水準を記録した2016年に比べると3.7%現象なんですが、
2017年の段階で175万台弱と、まだ世界第13位、
EU域内に限ると、ドイツ、スペイン、フランスに次ぐ第4位につけていました。


ただ、2018年になると好調と言えなくなってしまった、って感じなんですね。

イギリス自動車製造販売者協会の2017年の報告書で、当時は
「イギリスの自動車生産が2020年までに過去最高に肩を並べる」
としていたんですが、

2016年のブレグジットの決定が響き、事態が暗転してしまいました。

イギリスの2018年の自動車生産台数なんですが、
152万台弱と2年連続の減少で、一気に5年ぶりの低水準に落ち込んでしまいました。

今回のホンダの発表を機に、さらに減少傾向が加速するのではないかと懸念の声が出ています。


 

なぜホンダの撤退がイギリス現地で大問題となるのか


結局、景気の悪い話が多いからなんですけども、

日産が2020年前後から主力のSUVの次期モデルをイギリスで生産する計画を撤回し、生産を九州に移管する方針を打ち出しました。

それから、イギリスのジャガーランドローバーは、4500人の雇用削減方針を、

ドイツのBMWは今年4月いっぱいイギリスでの生産を休止するだけでなくて、一部オランダに生産を移管する検討をしています。

トヨタ自動車も、ブレグジットが「合意なき離脱」となった場合、生産を一時休止することを検討していますし、

アメリカのフォードも生産拠点を一部国外に移すと報じられていました。


ここまで各社が相次いで打ち出していたのは生産の一時休止とか他の地域への一部移管だったので、
それはそれなりに大変なんだけど、

今回のホンダは、生産工場を丸ごと閉鎖すると。

つまり、ホンダが打ち出したことは、
そこまでやるか、という話として話題になってしまっているわけですね。

雇用がどうなるのか、あるいは部品メーカーを含めた関連産業やそれ以外の産業にどういう影響があるのかなどについても、
強い不安の声が広まっています。


今回ホンダが閉鎖を表明したイギリスの工場はどういうもの?


そもそもなんですけど、
ホンダはイギリスでの四輪車生産のため、1985年に現地法人Honda of The U.K. Manufacturing Ltd.を設立。

現在の資本金は6.7億ポンドで、
出資比率は
ホンダ本体が13.7%、
ホンダの100%子会社のホンダ・モーター・ヨーロッパが86.3%となっているんですけども、

問題の工場はこの現地法人の所有で、従業員数が3500人です。

生産している車種は「シビック ハッチバック」「シビック タイプR」の2つで、
2つの車種の昨年の生産台数はおよそ16万台でした。



ホンダの工場閉鎖は、ブレグジットと関係があるのか?


たしかに現地を中心に、ホンダのイギリス生産撤退の主因を
「ブレグジットに伴う混乱への警戒感だ」
とする報道は多いんです。

例えばイギリスの新聞フィナンシャルタイムズは、
「八郷社長は今回の決定について、ブレグジットを考慮したものではない、ときっぱり否定したが、ホンダの決定にイギリス離脱が関係していると見る向きは多い」
と断定する記事を載せました。

スウィンドン工場の従業員たちもマスコミのインタビューに答えて、
「私も同僚もEU離脱が原因だと感じている」
と答える向きがかなり多いようなんですね。

実際のところ、
合意なき離脱になれば、イギリスからEUへの輸出には10%の関税がかかります。

このため、ヨーロッパ大陸での販売が一段と低迷する恐れがあったわけですね。

なのでこうした見方をメイ首相だけでなく、当のホンダの八郷社長も
「ブレグジットの影響は考慮していない」
と躍起になって否定した、という格好になっているわけです。


撤退の真の理由としているのは、
「グローバル生産体制の適正化を考えて決断した」
とか、
「次期シビックの製造拠点を模索した」
と繰り返し強調していますね。

ホンダがブレグジットの影響を全く考慮しなかったとは僕は思いません。ある程度頭の隅をかすめたはずです。

しかし、
その一方で八郷社長が強調したように、
現在のホンダの生産体制がとても適正とは言えない状態にあることは事実なんですね。


ホンダの生産体制は、適正とは言えない状態?


端的に言えば、
スフィンドン工場で昨年生産したのはおよそ16万台と申し上げましたけども、
イギリス国内に出荷したのはこのうちのわずか15%に過ぎないんです。

残りは北米への輸出が55%、
日本を含むその他地域への輸出が10%、
それからイギリスを除くEU域内への出荷が20%、
となっています。

イギリス国外に85%が出荷されているというわけなんです。

完成車の輸出にかかるコストは膨大ですから、
世界の大手自動車メーカーの生産基地の配置を決める基本原則は「地産地消」。

需要のあるところで生産する、ということなんですね。

この「地産地消」原則に当てはめると、生産台数の実に65%をEU域外の遠隔地への輸出に回さなければならないイギリス工場での生産は非効率です。

特に、55%を北米に輸出している状況ならば、北米でその分を生産した方がいいに決まっています。

実際に八郷社長は、イギリスで生産しているシビック2車種について、
「55%が北米への輸出なので、今後は現地北米の生産に切り替える」
と断言しました。



輸出コスト以外の問題点は?


世界各地で急速に進む「電動化」への対応ということだと思います。

この点でホンダは、
ヨーロッパ域内では電池の調達を含めて、生産面で競争力を確保することが難しいと判断した、
としています。

その一方で、
電気自動車の販売で最も大きな成長が見込めるのはアメリカと中国だとしており、
日本、アメリカ、中国のリソースを活用して、生産販売体制を整備し直す、
といいます。

この場合、
日本とEUの間で、2月1日にEPAが発効しており、これまでは10%だった日本からEUに向けて輸出される自動車の関税が8年目に撤廃されることも、八郷社長の念頭にあったはずです。



まとめ


地産地消」にも「電動化」にもそぐわないイギリスでの現地生産の見直しは、ホンダが言う通り、やはり急務だと思います。
それは進めていただく必要があります。

その先なんですが、イギリス工場閉鎖を含めた生産体制の見直しで、
2021年までに世界全体の生産能力を今より6%少ない、510万台規模にする計画をホンダは持っています。

そうした縮小均衡の中で、イギリスから日本への生産の回帰があるのか、
それが国内での雇用拡大につながるのか、

が今後気になる話ですよね。

そういった話は、他の製造業、
例えば電気でいうと、パナソニックとかソニーが、
イギリスの機能をオランダに移すなど、離脱を見据えた対応を急いでいるんですけども、
そういったものがさらに広がっていくのかどうか。

また、日本での製造業の、日本回帰の動きの動きが出てくるのかどうか、
とあわせて、見守っていきたいと思います。





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